嘘つき③【-束縛-】


「冴木は可愛いな」


部長がフと笑う。

曲がった優しい瞳に戸惑うけれど、惹きつけられて仕方ない。


「…君を見ていると思い出す」


「え?」


部長の言葉は自然であたしは聞き返したけれど、それが何なのかどうでもよかった。


「冴木の様に、過去に後悔がなければ前を向いてられるんだろうな」


部長?後悔、その単語に胸がチクリとする。


「後悔、ありますよ。誰だって。後ろを振り返らない人なんていないです。振り返るから、前を向いてられるんです」


あなたに何かあったのかもしれない。だけどあたしは知らないから。知りたいけど、そんな関係じゃないから。


ニコリと笑うあたしに、部長も微笑んだ。

< 21 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop