嘘つき③【-束縛-】
応接室の前、丁度扉が開いて、見知ったスーツの背中が見える。
「部長、この書類ですが…」
まださっきまでの妙な余韻が残るあたしは、前を向けず、だけど、その気配に思わず言葉を切った。
当たり前の様に視線を奪われたのは
息を呑むくらい綺麗な人。
部長と肩を並べても見劣りなどしない、むしろそれは確実な物の様に似合う。
「来客中だ。後にしろ」
淡々とした声に八ッとする。
誰、と言わなくてもわかる。
噂の婚約者。
里穂の“にこり”の意味。『顔、見てきなさいよ』そういう事。
事情を知らないにしても、酷。