嘘つき③【-束縛-】
「申し訳ありません」
頭を下げて顔を上げるその動作の先には、部長と、婚約者。柔らかい微笑を絶やさないその人は、何だか、置き物の様だとすら思う。
まるで、イメージが違った。
もっと、派手やかで、我が儘そうで、勝ち気なイメージを勝手に描いていた。それならためらわず嫌悪すらできるのに。
「冴木、君は落ち着きがない」
部長が首筋に触れる。
さっき、車の中でのそれと一緒。触れた体温が同時に胸を圧迫する。
「す、すいません」
頬が熱い。
部長は、優しく笑っていた。
婚約者がいるのに、その目の前で。あたしに触れるなんて、
ルール違反。
期待、してしまう。
あたしは特別なんじゃないかと。
「可愛らしい方ですわね」
初めて聞いた鈴のなる様な声に、一気に現実に戻された。