嘘つき③【-束縛-】
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「冴木」
低い優しい声。
あたしはビクリと体を反応させた。
「…部長」
芹沢愁哉さん、あたしの上司、課長になったばかりなのに異例の昇進で今期から部長になった。
肩書きが変わったとしても、名前で呼ぶ事なんてない事には変わりない。
「疲れてるな、少し休め」
部長は眼鏡の奥の瞳を僅かに細めた。
「そう…ですね」
確かに、疲れてる。
最近残業続き。新しいプロジェクトの企画も大詰めを迎えて、皆忙しいし、疲れから気が立ってる。
あたしも例外じゃない。
考えないようにしているのに。
忙しいと、いい。だけど、忙しくても考えてしまう。
彼の、部長の事。
「今夜…会えますか」
あたしは部長にしか聞こえない小さな声で呟いた。