嘘つき③【-束縛-】
「愁ちゃんが幸せとは限りませんもの」
そう言って琴音さんは、彼の名をいとも容易く呼ぶ。
何でこんな状況なのか。
思えば、
『愛人にしてください』
そんな訳の分からないセリフを部長に吐いてから、歯車が回り始めた。
眼鏡の奥の理知的な光を放つ瞳に捕らえられて
時折見せる優しい表情に離れられない。
彼を形作る物全てが好きだと思った。
左指に光るリングの存在を意識しても、尚。
あたしの目の前に座る、ううん、佇むっていう言い方の方が似合う。彼と同じ眩い位綺麗なリングを左手にはめる彼女。
羨ましくて。
認めたくなくて。
嫉妬する。
「あの方は、誰の物にもなりませんわ」
彼女は呼び名を改めてそう言った。
「え…?」
「男の人ってそういう物でしょう」
彼女、琴音さんは当たり前だと言わんばかりに言い切る。綺麗な微笑を添えて。
まるで、あたしと彼の関係を見透かす様に。