嘘つき③【-束縛-】
突き放す言葉。それでいてはっきりとした口調にあたしは僅かに違和感を感じる。
「…浮気してもかまわない、そういう事?」
あたしの問いに、僅かの躊躇も見せず
「それが必要なら」
淡々という琴音さんに何故かゾクリとした。この人は何か、欠けてるんじゃないかとそう思えてくる程に。
「例えば、あなたとあの方に何か特別な関係があったとしても、そんな事、問題じゃないですわ」
琴音さんは何事もなく言い放つ。あたしは、鼓動が早くなるのを感じて思わず息をつく。
「あたしと部長が、なんて有り得ません。勿論、素敵な方ですけど」
吐息はすぐに吸い込んで、笑顔を作ると黒目がちの大きな瞳を見つめた。
「そうね、彼は婚約者として申し分ない」
琴音さんはニコリと笑う。感情のない笑み。何だかそう感じて嫌な気分になる。部長を『婚約者』ただそれだけの枠に故意に入れる様に、突き放した言葉が嫌だった。
「部長は…、素敵な男性です」
あたしは、もう一度そのフレーズを使う。
男性、そう彼はたった一人の人だと言う様に。
あたし、何、張り合ってんのか。