yet...
「よし、しゅっぱ〜つ☆」
あたしが美久の背中を押すと、
美久はペダルを漕ぎだした。
4月下旬。
少し涼しい風が、
肌に気持ちいい。
「で…?」
しばらく無言のあと、
美久は口を開いた。
「ん?なに?」
あたしはさっぱり分からず聞き返す。
美久はあきれたように、
はあとため息をはいた。
「なんで学校の目の前に住んでるのに、こう何回も遅刻するわけ?」
美久の顔は見えないけど、
きっとあきれた顔をしているんだろう。
そりゃこうも毎日だと、
あきれもするか(笑)。
というかそもそもあたし
-中川優-
の自宅は、
完全にあたしの高校の
徒歩3分圏に存在するのだ。
…だけどあたしは、
ここ3日、寝坊で遅刻。
「いや、そうだけど(笑)」
「ほんとにいい迷惑(笑)」
美久は一瞬振り向いて
案の定あきれた顔で
ヤレヤレ、と苦笑する。
あ、なんか、この瞬間
すごく安心できる。
あたしは美久に抱き着いた。
「美久ありがと。」
美久は普段ありえないあたしの言葉に、
大袈裟に肩を震わせた。
ぐらっ。
美久がハンドルを滑らせる。
「そんなに?」
あたしは苦笑した。
美久はなぜか真面目に
「キモチワルイ」
と言っていた。
「まあお礼言って当たり前なんだけどね」
美久は相変わらず冷たい。
でもそんなところが
大好き。
いい友達もったなあ って
いつも思う。
口が裂けても言わないけどね。