泣き恋
ビクっとして、
反射的に顔を上げると、

目の前に黒い革靴が見えた。


「す、すみません…」


うつむいたまま
ぐちゃぐちゃになった顔を
手でぬぐう。






ふわっ






その瞬間、

突然、視界が真っ白になった。






「それ、使って」




頭の上から、低めの優しい男の人の声が降ってきた。


『え? それ…って?』


視界を覆っている白いものを触ると、


それは、タオルだった。


ふわふわで
お日様の匂いをいっぱい
吸い込んだタオルは

子猫みたいにあったかい。


その感触が心の弱いところに入り込んだみたいに


また涙があふれてきて


私は、その人物の存在を忘れて

タオルに顔をうずめて泣き続けてた。





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