泣き恋


その瞬間、

ふいに手首をつかまれて
軽く引っ張られた。



そして、地面に叩き付けられるはずの私の体は、


彼の胸に受け止められてた。



「そのタオル、泣く時専用だから。

キミ、まだ必要でしょ?

オレにはもう必要ないから、
貸しといてあげる」




彼の声が、
胸に押し付けられた耳に
振動として伝わってくる。


立ち尽くしたまま、私は動けなかった。


全部の力が流れ出してしまったみたいに…。




ううん、もしかしたら動けたのかもしれない。



でも、





「イゴコチガイイ」






単純にそう感じてしまったんだ。





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