残り香
 現場には1時間半程度で着いた。
途中渋滞も無く順調だった。
交通情報で良く名前を聞く渋滞箇所は、
早めの時間に通過した為影響はない。
運転をしていても、助手席にいても、
停車している時間はなるべく短い方がいい。
車にも、人間の精神的なことに対しても。
 以前の会社の車ではFENを良く聴いた。
AMラジオのみしかついていなかったからだ。
洋楽を聴くにはそれしか方法がなかった。
今はFMが標準でついているためJ-WAVEを流している。
音楽も良い音できこえてくるし、ニュースも天気予報も、
交通情報も結構重宝する。
ここ数年で、トラックの乗り心地も格段に向上した。
遠出をしても疲労度がかなり違って感じる。
 
 
 駅前の再開発で、この地区の古い商店街は取り壊されることが決まった。
時間の経過による老朽化の進んだこのビルも、もうじき解体される。
耐震やら防災やらの関係で、貴重な建物も町並みも消えていってしまう。
周りの建物は既に、その殆どが姿を消している。
柵の上部から、コンクリートを粉砕する粉塵と、
業者の名前が入った重機のアーム部分が見え隠れする。
 今回の現場、目的のビルには電気がまだきているようだ。
エレベータは1Fに停まったまま。
”1”の部分が薄暗い踊り場にほんのり浮かび上がってみえる。
非常口を表すみどり色の誘導灯は右半分が垂れ下がり、
コードだけが頼りだと言いたげに、かろうじて落ちないでいる。
もちろん明かりはついていない。
 上を示すボタンを押してみた。
右にスライドしながら扉が開いていく。
エレーベーター内の蛍光灯が通常よりかなり時間をかけ点灯した。
中を見回してから、扉が閉まる直前に乗り込む。
この建物が4階建てだということがエレベータ内のボタンの数でわかる。
”4”を押した。頭上の蛍光灯がチカチカと点滅を繰り返す。
密室のこういう照明は、なぜこんなにも気持ちを不安にするのだろう。
ダメになる時はスパっと切れる電球の方が潔くて好きだ。
乗ってから、無事にトラブルも無く動くのか疑問になった。
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