残り香
想像以上の振動を体に伝えエレベーターが上昇を始めた。
日が当たるせいか、1階のような強烈な湿気の匂いは感じない。
反面、埃は目立つ。
誰かが出入りしているであろうことは、
床に敷いた絨毯を思わせるつもった塵に、
足跡が残っていることで想像がつく。
上の階に続く階段がみえる。
屋上に行けるのだろうか。
昇り階段を一段進んだところで足を止めた。
「上にいるのか」
「今降ります」
階段の手すりから身を乗り出し応えた。
「2階にいる、早く降りてこい」
階段の下方から渡瀬さんの声がした。
生活感の無い建物の中は声が通る。
2階のテナントには美容室が入っていたようだ。
すでに他の場所に移り新店舗で営業しているらしい。
鏡、カット椅子、シャンプーブースにはマジョリカタイプのシャンプーボールが残されている。
消毒室兼材料をスットックしていたと思われる部屋にはボイラーまで残っていた。
結構古いタイプではある。
現在の器具に比べ作りに重厚感を感じるしっかりした物が、
以前は多かったように思う。
近頃はライトになり軽々しい。
カラーは豊富になり鮮やかにはなったのだが安っぽさは否めない。
ここにある年代の物達は、
手入れをし大切に使うと皮や金属の部分に程よい”あじ”がただよう。
埃をはたくとまだまだ十分使えそうな、
実に感じの良い質感が顔を出す。
「どうだ使えそうか」
「・・・・」
「アキラ、おまえこういう感じ好きだろ、レトロな感じ」
「結構好きですけど」
渡瀬が私を連れてきた理由が理解できた。
「どうするんです、これを撤去するんですか」
「そろそろ必要だろ」
「オレですか?」
「もう美容室行かないといけないんだが」
渡瀬が伸びた髪をかきあげながら鏡越しに私を見た。
「・・・・」
「物件探してるんだろ」
確かに探してはいる、安くて適当な物件を。
日が当たるせいか、1階のような強烈な湿気の匂いは感じない。
反面、埃は目立つ。
誰かが出入りしているであろうことは、
床に敷いた絨毯を思わせるつもった塵に、
足跡が残っていることで想像がつく。
上の階に続く階段がみえる。
屋上に行けるのだろうか。
昇り階段を一段進んだところで足を止めた。
「上にいるのか」
「今降ります」
階段の手すりから身を乗り出し応えた。
「2階にいる、早く降りてこい」
階段の下方から渡瀬さんの声がした。
生活感の無い建物の中は声が通る。
2階のテナントには美容室が入っていたようだ。
すでに他の場所に移り新店舗で営業しているらしい。
鏡、カット椅子、シャンプーブースにはマジョリカタイプのシャンプーボールが残されている。
消毒室兼材料をスットックしていたと思われる部屋にはボイラーまで残っていた。
結構古いタイプではある。
現在の器具に比べ作りに重厚感を感じるしっかりした物が、
以前は多かったように思う。
近頃はライトになり軽々しい。
カラーは豊富になり鮮やかにはなったのだが安っぽさは否めない。
ここにある年代の物達は、
手入れをし大切に使うと皮や金属の部分に程よい”あじ”がただよう。
埃をはたくとまだまだ十分使えそうな、
実に感じの良い質感が顔を出す。
「どうだ使えそうか」
「・・・・」
「アキラ、おまえこういう感じ好きだろ、レトロな感じ」
「結構好きですけど」
渡瀬が私を連れてきた理由が理解できた。
「どうするんです、これを撤去するんですか」
「そろそろ必要だろ」
「オレですか?」
「もう美容室行かないといけないんだが」
渡瀬が伸びた髪をかきあげながら鏡越しに私を見た。
「・・・・」
「物件探してるんだろ」
確かに探してはいる、安くて適当な物件を。