病んでいても愛したい。


その体の持ち主の胸板に自由な左手で触れる。


「私が、信じられない?離れないよ」


「信じている。錐恵は俺に絶対嘘をつかないから。――でも、現実は違うだろう」


「……」


寝る前の会話を思い出す。


左手を下げれば、彼がベッド上にある手を強く握った。


「離れたくない気持ちがあっても、離れなきゃいけない。よく分かるよ、君の言葉は。生きている限り、人間は“自由”じゃないんだ。

縛りがあり、ルールがある共存者。周りに合わせて生きていく不自由な毎日の中、たった一人の人と一緒に過ごすことはできない。

人間は“一人だけ”じゃないんだから」


「……」


神楽の言葉はよく私に響く。共感したのは、私が彼と同じ心持ちだからだろう。


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