『無題』
第一章―capriccioso
「―――――。」

ふ、と気が付くと、目の前に少女が居た。

名も知らない、少女。

「・・・誰?」

出てきた言葉はそんな間の抜けた疑問符。

「だあれだ」

クス、と小さく笑う。

楽しんでるようにも、嘲笑うかのようにも見えるその笑い方に少し嫌な感覚を覚える。

眉間に皺を寄せ考えていると、また少女はクスクスと笑いだす。


そして一言。

「無いよ」

と。

何が、と問うと名前が、と返ってくる。

「だからさっきの質問の答えも」

「はあ・・・」


随分不思議な子だ、と思う。

素足に、今にも消えそうな程薄い蒼色の、とても綺麗な長い髪。


「・・・もしかして、幽霊?」

至った結論はそんな非科学的なもの。

でも目の前の少女はすぐに首を振った。

そして、

「なんだろうね、」

―なんだと思う?、と一言。


また最初のような違和感のある笑い。

クスリ、と。


「・・・じゃあ、死神とか」

「違うよ」

またすぐに返ってくる答え。


「ねえ、怖い?」

す、と少女の中から全ての表情が一瞬で消え去った。

自分は、そんな事は無い、と首を振る事しか出来なかったが。


そっかぁ、と今度は違和感など全く感じさせない笑みが零れた。
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