君の詩を聴かせて

―涙の理由




 あれからひたすら、俺は円香を避け続けた。

 朝は円香が嫌がるギリギリの電車に乗って行く。

 遅刻しそうになるときもあるけど今はまだ遅刻したことはない。

 机に鞄を置いた瞬間、本鈴が鳴った。


「…今日もギリギリ」

「間に合ってるからいいんだよ」


 無感情な琉愛の目を避けて席に着く。

 琉愛の目、何考えてるかわからない。

 きっと、鋭い琉愛なら気付いてる。

 いきなり登校時間を変えた理由。

 それがこの間のことにも関係してるってことも。

 探るような琉愛の目は俺には居心地が悪かった。


「…今日も、来てた」

「……」

「…大和は、」

「本、読みなよ。
 先生に言われるよ」


 副担が入ってきたのをきっかけに話を逸らす。

 少し睨むように見て、琉愛は前を向いた。

 はあ…このやりとり、何回目だっけ。

 始業式の日からだから…2週間?くらいか。

 まだ2週間…長い。

 別に、一生このままでいようとかは思ってない。

 ただ…今は、無理だ。






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