◆あの日の私が願ったこと
春の土手は暖かく

心地よい風が吹いていた。


芝生はその風に揺られて
気持ち良さそうに皆踊っていた。

蒲公英とシロツメクサの
綺麗な黄色と白の花が咲いていた。



緑の芝生が続く土手を見渡すと
一台の自転車だけが
ポツンと目立っていた。

そのまま私も自転車を押しながら
その場所に向かった。


たどり着いた私は
春風に髪を揺らしたまま
そこに寝て居る樹を見つけた。

起こしたら悪いと思い
そのまま静かに自転車を止め
横に座った。

大きな橋を渡り
帰る同じ高校の生徒が見える

後ろには大きな道路が通って居て
騒がしく車の音が聞こえた。


温かい日差しを感じて
私のブレザーからは
陽の香りがしていた。


ちょっと経ってから樹が起きた。

「起こしてくれたらよかったのに」

小さく謝罪の言葉を呟いたけど
その光景が好きで
ずっと見て居たいと思ったから
敢えて起こせずにいたのを

私は最後まで言わなかった。


そのまま2人で学校の話や
くだらない話で笑いあった

ゆっくりとした時間が流れてた

付き合うって、
こんな心地良いものなんだ

そう思った。


彼氏が出来て2人で話したのは
これが初めてだった。


そこで初めて、
彼氏と唇を重ねた。

恥ずかしくも、特別な時間で
樹にとっては当たり前なのに
全てが初めての私には

とても淡い時間に感じた。


その日は陽が落ちてから
一緒に帰ってばいばいした。

家に帰ってからも
幸せな気持ちは続いたままで

好きな気持ちがこんなに
大きくなっていくのは
自分でも不思議で仕方なかった。


それから登下校は
一緒に行くようになった。

何もかも幸せで、
一緒に居る時間だけが特別で

2人が会う場所は決まって
最初の土手だった。

そこが私たちの
キッカケの場所、思い出の場所。
< 2 / 17 >

この作品をシェア

pagetop