◆あの日の私が願ったこと

最初何が怒ったのか解らなかった。

樹の右手が
私の腹部を直撃したらしい。


痛いというよりも
驚きのが大きくてその時
その状況をよく把握出来なかった。


その後に
胸ぐらをつかまれて
やっと理解した。


「お前はいつも俺の事を考えてない。

自分だけ楽しそうにしやがって
なんで俺の事をもっと理解しない?

黙ってれば調子に乗りやがって
いい加減こっちも我慢の限界だよ。」


静かにそう耳元で呟いて

私のブラウスをつかむ手が緩んだ。


その間私は言葉も涙も出なかった。

驚きの目で樹を見上げた。
樹の目はいつもとちがかった。


するとまたブラウスを
つかんだ手に力が入った

「聞いてんのかよ!」

どなり声と同時に
樹の右手が私の頬を叩いた。

その勢いに負かされ
私の顔は右を向いた。

「俺がそんなに嫌いか?」

恐怖と動揺で言葉も出ず
ただ首を振った。

「じゃあ、
なんだって出来るよな」

もう一度首を横に振った。


私の動きとかぶるように
また腹部に重い痛みが走った。

何回も。


ようやく
首元から離れた手

私はしゃがみこんだ。


その目の前にしゃがみこんで


「覚えとけよ
帰ったらもう一度会おう」



そう言い残して私の前から
樹は姿を消した。
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