◆あの日の私が願ったこと

うずくまってから少し経って

私はそのまま無言でバスへ戻った。



バスの席に座ってから
初めて涙があふれた。


恐怖と動揺。


私の愛した人は
こんな事をするような人だった?

今まで笑ってたあの人は
こんな事を普通に出来た人?

友達が何かを言ってたけど
それすらも頭に入って来なかった。


笑顔で私の名前を呼んで
両腕を広げてたあの人は

さっきの人と別人だった。


「帰ったらもう一度会おう」


その言葉が何よりも怖くて

帰りたくない気持ちでいっぱいだった。

どうか、夢であって下さい。

帰ったら普通のあの人である事を
本当に心から祈った。



校外授業が終わって、

地元に着いた。


帰り際に樹に呼ばれて

樹の家の前まで行った。


私は自転車を降りて、

細い路地を入って行った。
その奥にあるのが樹の家だ。

樹が自転車をとめる後ろ姿が見える。


スタンドを下す辺りで
私が樹の後ろにたどり着いた。


樹は自転車をとめて
ゆっくりと振り返った。


樹の背中を見てたはずなのに

次にみえたのは地面だった。

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