ソラルリラ―晴色の傘―
確かに、ページの切れ端には、火の玉のような絵と共にそう書かれていた。
「お、読めるんだ」
「当然。私は語学には堪能なの」
書かれている文字は、この国で半世紀も前に廃れた言葉。今では古い書物や歴史のある建造物でしか見ることの出来ない、絶滅した言語なのだ。
私は鼻を高くしてロップを見た。
「誰かさんとは違ってね」
「ああそうだろうよ! お前と違って産みの親の顔が見てみたいからな!」
マズい、知らず地雷を踏んだのだと気づいたのは、先程まで笑っていた幼なじみに、思いがけず強い口調で反発されたから。
「……ごめん」
「……」
ロップは孤児(みなしご)だ。
私がまだ、お母さまのお腹の中で生まれるのを待っていた十四年前。私の家の門扉の前に、兄弟らしい2人の赤ん坊が、冷たい雨に打たれながら置かれていたらしい。
私の家は大昔からの由緒ある名家だが、貿易で実利を上げて経済に名を馳せるようになったのはここ数年の事。その頃はまだ、養子を養える程に裕福ではなかったのだ。
捨て子をどうするか、だだっ広いだけの居間に家族四人(お腹の中の私を入れて五人)と家政婦二人、その全員が集まった。
しかし皆が集まった頃には既に、衰弱しきっていた二人の内一人が、静かに息を引き取っていた。
もう一人は、隣で冷たくなった自分と血の繋がった兄弟をじっと見ながら、それでも尚泣かなかったという。
見かねた日の浅い家政婦の一人が、おもむろに生き残った男の子を抱き上げ、『私が育てます』と言った途端、それまで雨に濡れても兄弟が先に逝っても泣かなかった赤ん坊は、急に堰を切ったように泣き出したらしい。
その赤ん坊がロップ。レイモンドは、家政婦さん――ロップの育ての親の名字なのだ。
レイモンドさんは未亡人で、夫と息子を事故で早くに亡くしている。彼女もその事故で右足を悪くして、私の家で家政婦をする前は仕事になかなかありつけず、苦しい思いをしてきたのよ、と母さまから聞いたことがある。
彼女が、ロップを亡くした息子に重ねていたのは明らかだったが、当時、まともな教育を受けさせる金銭的な余裕など、レイモンド家には無かった。
だからロップは物心ついた頃から私の家の家事仕事を手伝っていて、私にとっては楽しい話し相手であり、よき理解者であり、一番の親友だった。
「お、読めるんだ」
「当然。私は語学には堪能なの」
書かれている文字は、この国で半世紀も前に廃れた言葉。今では古い書物や歴史のある建造物でしか見ることの出来ない、絶滅した言語なのだ。
私は鼻を高くしてロップを見た。
「誰かさんとは違ってね」
「ああそうだろうよ! お前と違って産みの親の顔が見てみたいからな!」
マズい、知らず地雷を踏んだのだと気づいたのは、先程まで笑っていた幼なじみに、思いがけず強い口調で反発されたから。
「……ごめん」
「……」
ロップは孤児(みなしご)だ。
私がまだ、お母さまのお腹の中で生まれるのを待っていた十四年前。私の家の門扉の前に、兄弟らしい2人の赤ん坊が、冷たい雨に打たれながら置かれていたらしい。
私の家は大昔からの由緒ある名家だが、貿易で実利を上げて経済に名を馳せるようになったのはここ数年の事。その頃はまだ、養子を養える程に裕福ではなかったのだ。
捨て子をどうするか、だだっ広いだけの居間に家族四人(お腹の中の私を入れて五人)と家政婦二人、その全員が集まった。
しかし皆が集まった頃には既に、衰弱しきっていた二人の内一人が、静かに息を引き取っていた。
もう一人は、隣で冷たくなった自分と血の繋がった兄弟をじっと見ながら、それでも尚泣かなかったという。
見かねた日の浅い家政婦の一人が、おもむろに生き残った男の子を抱き上げ、『私が育てます』と言った途端、それまで雨に濡れても兄弟が先に逝っても泣かなかった赤ん坊は、急に堰を切ったように泣き出したらしい。
その赤ん坊がロップ。レイモンドは、家政婦さん――ロップの育ての親の名字なのだ。
レイモンドさんは未亡人で、夫と息子を事故で早くに亡くしている。彼女もその事故で右足を悪くして、私の家で家政婦をする前は仕事になかなかありつけず、苦しい思いをしてきたのよ、と母さまから聞いたことがある。
彼女が、ロップを亡くした息子に重ねていたのは明らかだったが、当時、まともな教育を受けさせる金銭的な余裕など、レイモンド家には無かった。
だからロップは物心ついた頃から私の家の家事仕事を手伝っていて、私にとっては楽しい話し相手であり、よき理解者であり、一番の親友だった。