ソラルリラ―晴色の傘―
 その親友の前で勉強が出来る、つまりあなたと違って勉強する環境があるのよ、とひけらかしたようなものだ。
 どの口を叩いて彼を親友を呼べるのか。
「……ごめん」
 もう一度謝る。今度は頭も一緒に下げる。
 目から溢れた涙が、雨の当たらない倉庫の床を濡らした。
 ふと、前が急に暗くなったと思ったら、ロップが屈んで困った顔で私を覗き込んでいる。
「ほらほら、もう怒ってないからもう泣くなよー。顔上げて……そうそう。さ、これで顔拭いて」
「……うん」
 言われるがままに差し出されたハンカチで涙を拭おうとして、目に近付けたところではたと気がついた。
「……このハンカチ、泥だらけなんだけど」
「ちっ」
 確信犯だった。
 けれどお陰で、重苦しかった空気が文字通り一気に払拭された。
 泥だらけのハンカチは、涙ではなくその原因から拭き取ってくれたようだ。
「えー、コホン。では続きを読んでくれたまえ」
 珍妙な顔で教師の真似事を始めるロップに、泣き顔だった私も思わずクスクスと笑いながら応える。
「分かりました、レイモンド先生」
 時折こんな風に、ロップの方がずっと大人びて見える瞬間がある。
 いつも物事の全体を見渡して見通せるのだ。
 嫌な事は決して引きずらず、楽しい事はとことん楽しく。悪い空気は、機転ととんちでガラリと変えてしまう力がある。
 私とはたった一つしか違わないのに。
 気が付けばいつの間にか私たちB地の仲間のムードメーカーになっていた。
 リーダーではない。私たちは軍のように縦割り組織ではないから、あくまでもムードメーカーだ。
 今日だって目の前の悪友が、B地の仲間に『それぞれが町で面白いものを見つけて集まったら面白そうじゃないか?』と言ったのが発端なのだ。
 倉庫の隅には今日の収穫が、無造作に山積みになっている。
 どうもロップがいないと盛り上がりに欠けるようで、みんないつもより早く帰ってしまった。
 そのお陰で謎のページの切れ端は、私とロップだけの秘密の一枚になった。
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