ソラルリラ―晴色の傘―
「『ここは太陽の国ソラルリラ。毎日あたたかな日差しがふりそそぐ、平和な大地です』……」
「よく読めました」
どうやらこの千切れた紙切れは、絵本の最初のページらしい。
短い書き出し文の上に、ソラルリラの特徴である尖った屋根の並ぶ町の絵。その上に枝葉の広がった大きな植物と思われる緑。最後に大きな赤橙の円と火の玉が順に描かれていた。
ボロボロの右上隅にはこの国の制作物を示す、楓という植物の葉をかたどった国紋。
やや黄ばんではいるものの、ソラルリラでは高価な植物から採れる染料で染められた赤や青といった鮮やかな色彩は、月日が経っていても、色褪せる事なく私の視覚に飛び込んでくる。
一冊の本だった頃には、さぞかし美しい装丁で見る者を虜にした事だろう。
「ロップ、これ読めたの?」
確か、ソラルリラの五つの町で現在一般に使われている言語であるラルド語は、殆ど読み書き出来ると前に聞いた事がある。
暇をみては、私の読み終わった教科用図書を読み漁り、町の古本屋に入り浸って知識を付けたのだと自慢げに話してくれていた。
「ああ。駐屯軍の倉庫に一緒にこれが保管してあったからな」
そう言ってロップが見せたのは、先の絵本のページとは打って変わって真っ白な、軽くて耐水性に優れる“羽紙”と呼ばれる高価な紙。書いてあるのは、私が読み上げた文章をラルド語に訳したものだった。
「楓の国紋もあるし、少なくとも五十年以上昔にソラルリラで書かれた絵本だ。すげぇだろ!」
得意げに鼻を鳴らすロップを後目に、私の意識は描かれた絵に釘付けだった。
「うん……凄い……」
ガラス細工と見紛うばかりに繊細なタッチの町並みは柔らかな配色で描かれており、緑やオレンジを際立てている。
その町の上に浮かぶ赤橙色の円と火の玉は、分厚い雲の先の空に今でも浮かんでいるというロストシンボル“タイヨウ”だろう。
私が生まれる前に曇天に閉ざされた蒼穹には“タイヨウ”と“ツキ”という二つのシンボルが、昼と夜をそれぞれ交互に見守っていた。
そしてソラルリラの雨が止まないのは、その二つのシンボルに人々が畏敬の念を抱かなくなったからだ、と一説には言われているのだ。
「よく読めました」
どうやらこの千切れた紙切れは、絵本の最初のページらしい。
短い書き出し文の上に、ソラルリラの特徴である尖った屋根の並ぶ町の絵。その上に枝葉の広がった大きな植物と思われる緑。最後に大きな赤橙の円と火の玉が順に描かれていた。
ボロボロの右上隅にはこの国の制作物を示す、楓という植物の葉をかたどった国紋。
やや黄ばんではいるものの、ソラルリラでは高価な植物から採れる染料で染められた赤や青といった鮮やかな色彩は、月日が経っていても、色褪せる事なく私の視覚に飛び込んでくる。
一冊の本だった頃には、さぞかし美しい装丁で見る者を虜にした事だろう。
「ロップ、これ読めたの?」
確か、ソラルリラの五つの町で現在一般に使われている言語であるラルド語は、殆ど読み書き出来ると前に聞いた事がある。
暇をみては、私の読み終わった教科用図書を読み漁り、町の古本屋に入り浸って知識を付けたのだと自慢げに話してくれていた。
「ああ。駐屯軍の倉庫に一緒にこれが保管してあったからな」
そう言ってロップが見せたのは、先の絵本のページとは打って変わって真っ白な、軽くて耐水性に優れる“羽紙”と呼ばれる高価な紙。書いてあるのは、私が読み上げた文章をラルド語に訳したものだった。
「楓の国紋もあるし、少なくとも五十年以上昔にソラルリラで書かれた絵本だ。すげぇだろ!」
得意げに鼻を鳴らすロップを後目に、私の意識は描かれた絵に釘付けだった。
「うん……凄い……」
ガラス細工と見紛うばかりに繊細なタッチの町並みは柔らかな配色で描かれており、緑やオレンジを際立てている。
その町の上に浮かぶ赤橙色の円と火の玉は、分厚い雲の先の空に今でも浮かんでいるというロストシンボル“タイヨウ”だろう。
私が生まれる前に曇天に閉ざされた蒼穹には“タイヨウ”と“ツキ”という二つのシンボルが、昼と夜をそれぞれ交互に見守っていた。
そしてソラルリラの雨が止まないのは、その二つのシンボルに人々が畏敬の念を抱かなくなったからだ、と一説には言われているのだ。