メトロノーム
先輩のお母さんは微笑んで鞄の中から取り出した。
「弥琴ちゃん宛の手紙…読んでないから安心して?」
そう言って出したのは1つの封筒。
『坂井弥琴へ』と、綺麗な先輩の字で書いてある。
「それから…これ」
差し出されたそれは『坂井専用』とこれも先輩の字で書かれたファイルだった。
ファイルにはサックスと音符の絵が描いてある。
「これ…弥琴ちゃん専用の楽譜みたいなの」
開いてみると私の苦手なフレーズやその対策などが書いてあった。
先輩はいつも5分で正確に指導してくれた。
それはこのファイルがあったからこそなのかもしれない。
「せ、んぱ…い─」
私は先輩のお母さんの方に向き直った。
「私…先輩が……だ、い好き…で、す。今…でも」
先輩のお母さんは私が言い終わる前に私を抱きしめた。
「ありがとう」
そして、涙を1粒溢した。
私ゎそれにつられて泣いた。