ヒレン
「……政略結婚。貴方なら縁遠いものでもないでしょ?」


「…はい。でも、止めようと思わなかったんですか?北先生も、想い合っている相手、長崎先生がいるのに何故?」


「…両親を裏切れないと。向こうも同じだったみたいで利害が一致したからと言っていたわ。私の方は……まだ和真を忘れていない、どこか重ねている自分に縋る権利はないの」


コーヒーの苦味がやけに心を騒がす


「でも、北先生は止めて欲しかったんじゃないですか?」


あの時の北先生の瞳は誰よりも愛しい人を見つめる瞳だ


「…同じことを言うのね。出来なかったの。彼を愛していたからこそ出来なかった」


愛しているから?


「彼には何の負い目も負って欲しくない。辛い目に遭ってほしくないの」


気持ちはわかる。

わかりすぎるほどに。

どうして優太を養子にしたのか。

運命を恨んだこともある。

100年を超える伝統を捨ててどこかへ、優太と二人行きたいと想わなかったわけじゃない。


でも、両親にすごく恩を感じている優太に、何もかも捨てて一緒になりたいなんていえなかった。


そのことで苦しむ優太を見たくなかった。


誰よりも大切だからこそ


「先生は強いです。私は…」


「強くなんかないわ。私が強く見えるのは支えてくれる人がいるからよ。でももし私が強いのだどしたらそれは私を想ってくれる人のため」


小さく笑った智子の顔は今までのどんな表情よりも穏やかだった


私は優太のために強くなれるのだろうか…


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