ヒレン
もう数えくれないくらい押した短縮零番。


いつも長く感じる時間が今日はやけに短い。



心地よい唄も、今日ばかりは……



「舞子?」



「優太。私女医になりたい」


「……」



電話の向こうで優太が僅かに息を呑むのがわかった。



ごめんね。わがままで。


ずっと支えてもらっていたのに何も返せなくてごめんね




「なりたい人がいるの。いつも優太に甘えてばかりだったから、ちゃんと優太と支えあえる、一人で歩けるようになりたいの」



多分、最大のわがまま




「わかってた。舞子ならいつかそう言うだろうって」



ゆうた……



「支えてもらってたって言うけど、支えられていたのは俺の方だ。実子じゃないってことを知った時や何度も舞子の存在に助けられた」




優太。



「そんなこと」




いつ知ったのか、誰から聞いたのか。



もう覚えていない。


禁忌を犯した時から、違う。




その前からこの男(ひと)が愛おしかった




< 163 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop