ヒレン
部屋に戻ってきた真はベッドサイドに座り、智子に声をかけた。


「咽喉は?」


「声はかすれるけど痛みはそれほど。・・ねえ、うわ言で変なこととか言ってないよね?」


心の中で驚きを見せながらも真ポーカーフェイスを貫いた。




「例えば?」



「・・・・智のこととか。薄っすらとなんだけど、あの頃の夢を見た気がするの」


「大丈夫。何も言ってない。食べたらまた薬飲んでゆっくり眠りな。じゃなきゃ、帰ってきたとき和真心配するぞ」


そういって口元を緩めた。智子が微かに頷いた瞬間、扉をあけ、器を持った秀明が中に入ってきた。


「どうぞ」


そう言って起き上がった智子に器を渡した。


「ありがとう」


少しずつスプーンで口に運ぶ。瑞々しいりんごの甘みが口に広がり、思っていた以上に体が求めた。


器が空になると真は薬と水を智子の手にのせる。


「さっきより食べられたな。薬飲んでまた寝ろ」


受けとった薬を飲むと、ペットボトルを真に渡し、口を開いた。


「ありがとう。二人とも。もう大丈夫だから」


真は小さく1つため息をつくと、智子の頬を軽く片手で引っ張った。




「その表情(かお)で言っても説得力ない。ほら、横になって、直に薬効いてくるだろうから」

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