Tears in Love 〜せつない想い〜下
病院。


・・・ピッ ピッ ピッ


嫌な音が病院中に響く。


矢野先輩の親達は
泣き崩れている。


ごめんなさい・・・。


あたしのせいで・・・。


あたしがいなければ・・・。


手術室の外にあるソファーに
黙って座るあたし。


目の前を何人かが
慌ただしく走っていた。


そんな中であたしは
矢野先輩の顔を思い出す。


矢野先輩の優しい言葉。


クールに話す矢野先輩。


無邪気に笑う矢野先輩。


いろいろな矢野先輩が
あたしの頭の中で、

映画のスクリーンのように
流れる。


体中から血が流れてた。


いっぱい傷があった。


矢野先輩・・・あたしは・・・


「・・・柳原・・・」


「長瀬先輩・・・っ」


あたしは
長瀬先輩の胸に飛び込む。


・・ぎゅっ


「あたしの・・・


あたしのせいで・・・っ
矢野先輩は・・・っ」


涙を流すあたしに対して、
長瀬先輩は優しく強く
あたしを抱きしめた。


「お前のせいじゃねー・・・

絶対に・・・
お前のせいなんかじゃねーよ・・」



5時間36分。


手術に要した時間は
長かった。


医者が手術室から出て来ると、

矢野先輩の家族が駆け出す。


「大地は・・・大地は・・・っ」



そして。



「息子さんの手術は成功しました」


周りの重い空気が、
一瞬軽くなった。


けれど。


医者は何一つ顔色を変えず、


「・・・手術は成功しましたが、

息子さんの意識は
いつ戻るか分かりません。

それに・・・」


「それに何ですか・・・!?」


「・・・例え、
意識が戻ったとしても

左腕の神経は動かすことが
できません」


「「・・・!?」」


空気が一瞬にして重くなった。


「どう言う事ですか?」


「・・・日常には負担は
ありません。


しかし、
今続けているスポーツは
多少できますが、

あまり動かすことが
できないはずです」
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