刀人―巡りめく戦乱の中で―
壱章

―輿―

須江長の国よりももっと北の方角にあるという瑞湖の国。冬になれば国の象徴である湖が一面凍り、一つの島となる名所としてもよく知られている。

未だ見ぬ嫁ぎ先を思いながら全身を白無垢に包まれ祭は俯きながら籠の中で揺られていた。昔父に聞いた話によると幼い頃一度だけ行ったことがあるらしいが、祭の記憶には残っていなかった。

道中そう遠くはないが山を一つ越えて行くため到着には時間が掛かるようだ。

傾斜に差し掛かり、御輿がゆっくりと後方に傾いて行く。


一層のこと此処で賊に襲われてこの籠が目的地に到着しなかったら……。などと物騒なことをほんの少しだけ思いたくなってしまう。そんな邪心を振り払うかのように首を横に振った。


愛される喜びを知っているからこそ、愛されない現実を目の前にして業火の中に自ら飛び込みたいと思う者はいないだろう。

一人の人が自分だけを愛してくれるという喜びを知ってしまったというもの、自分の中に新たな想いが芽生えてしまった。
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