天蓋花―テンガイバナ
冷たくなった身体。
呼ぶ声はただ虚しく、寒空に消えていくばかり。
『きら…』
凍ったような冷たさを持つ、きらの脚先。
いつも起こしてくれた柔らかい毛並は氷で固まっていて。
真っ直ぐ見つめるはずの瞳は、どこか遠い向こうを眺めていた。
お前は何にそんな必死になったんや?
猫やんか、
気まぐれやんか、
人より家を選ぶんやろ?
こんなん、知らんわ。
ただ迷子になったとかはあり得へんかった。
その証拠に、きらの歩いた足跡は確実にいつもの散歩コースをたどっていたから。
何回も
何回も
家の前を歩いた跡があって、
それなのに中には入って来んかった。