忘れたい 忘れたくない
「 そろそろ行こっか 」
トオルはそう言うと、立ち上がって伸びをした。
まだお昼を過ぎたばかり。
急に寂しさが押し寄せてくる。
だけど
「 うん 」
あたしも笑顔で立ち上がった。
1日なんて、あっという間。
あたしは、海を眺めながら歩くトオルの後ろ姿に愛おしさを感じた。
すると、ふいにトオルが振り返り
「 舞、記念に写メ撮ろう 」
トオルはポケットから携帯を取り出した。
…… 写メ
一緒に撮りたい。
でも、もし奥さんに見られたら?
証拠になるようなものはマズい…
「 舞、笑って 」
あたしの不安をよそに、トオルは手を伸ばし、インカメラにした携帯を向けている。
「 写メはマズいんじゃ… 」
「 笑って。撮るよ〜 」
トオルはあたしの言葉を遮ってシャッターを切った。
…カシャッ
トオルは画像を確認すると、
「 保存して、あとでメールで送ってあげんね 」
そう言ってまた、携帯をポケットにしまった。
トオルとあたしが一緒に過ごした時間。
それが、形になって残された。