忘れたい 忘れたくない
始まり
トオルは、あたしを可愛がって育ててくれた。
第一印象が悪かったからか、あとは好印象をもつしかない。
「 ねね、デートしようってば 」
トオルは仕事中だろうと構わずあたしを誘う。
「 誰にでもそんな事言ってると、いつか刺されますよ 」
あたしはこんな調子で断っていた。
既婚者に遊ばれるなんて絶対イヤ。
あたしは勝手にトオルの気持ちを全否定していた。
――本気なわけがない。
そんな会話も日常化したある日――
「 アドレス教えて 」
紙とペンが用意され、ニコニコしながらトオルが言う。
突然の事でびっくりした。
上司とアドレス交換なんてするの?
「 マネージャーとあたしがメールするんですか?何を話すんですか? 」
言った後に、
何て失礼な事を言ってしまったんだろうと後悔した。
だけどトオルは気にする様子もなく、ニコニコしながら待っている。
この状況じゃ断れない。
あたしはアドレスを書いてトオルに渡すと、
「 メールするね 」
そう言ってデスクの引き出しにしまった。
あたしは
…ドキドキしていた。
…期待していた。