あんでっど
昔々
その昔、世にも美しい姫が生まれ賑わった藩があった。
白馬に乗った見目麗しい若者が祝いに寄ったと口上を述べた。
曰わく『姫は永遠に若く美しい姿でいられますでしょう。もし我妻となれば。』
殿様はカラカラと笑い、『我が姫は隣国の若君とすでに許嫁の約定を交わしておる。残念至極じゃ。そなたが若君のような地位あらば願ったりの縁であった。』となだめた。
若者は見たもの全て震えあがり、それでいて恍惚としてしまうような美しくも残忍な笑みを浮かべて言い放った。
『私が隣国の主とあらば、真に姫を貰い受けること叶うや』
呆気にとられた殿が半ば無意識に頷いたとみるや、若者は白馬に乗り、颯爽と去った。
一刻後、若者は血まみれで白馬とわからぬほど赤くなった馬にまたがり、自身は返り血一つ浴びぬ先刻とは変わらぬ姿で片手に西瓜ほどの隣国の若君の頭を抱えて戻ってきたという。
すわ、もののけなり!
藩中の者が総出で若者に切りかかろうとした、まさにその時に、乳母やが転がり出て『姫君が、たったいま、みまかりました~!』と姫の急逝を告げた。
若者は天を仰ぎ『またか…』と呟き風のようにかき消え、藩は、あっという間に没落したという。
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