あんでっど
「いらっしゃーい」
美春が長寿庵に入ると、おばあちゃんがニッコリと笑って出迎えてくれた。
だいぶ腰が曲がってしまい、ショーケースに潜ってしまっている。
おばあちゃんは美春を見ると嬉しそうに言った。
「久しぶりねぇ。お引っ越しが多いと聞いていたから、もうこの街からいなくなっちゃったのかと思ってがっかりしてましたよ。」
美春は一瞬、父母が亡くなったことを伝えるべきかと迷ったが、おばあちゃんに余計な悲しみを与えるべきではないと思い、曖昧に微笑みかえした。
「大福を3個、お願いします。」
美春が代金を支払おうとした時だった。
「うっ!」
チャリンチャリンと小銭が音を立てて、おばあちゃんのしわくちゃな手からこぼれ落ちた。
「苦しい…」
「おばあちゃん、おばあちゃん、しっかりして!」
どこからか、中年の女性が現れて、おばあちゃんを抱き起こし、美春に渡した。
「いま、救急車を呼びますから!」
「うっ、うぅ…」
しっかりして!と声を出すこともできず、美春は老婆を抱きしめた。
「こ、これを…」
苦しい息の下から、おばあちゃんが美春に何かを差し出した。
「決して、…には、はぁ…ちかづい…い、け…」
「おばあちゃん?」
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