ソレデモワタシハアナタヲアイス
「美咲!」
真由子が声を上げた。
―――美咲―――
黒い何の飾りの無い、ワンピース姿の美咲がそこに立っていた。
「ごめん、真由子。遅くなって」
駆け寄って抱きつく真由子の背中をポンポンと叩きながら、美咲は記憶の中と変わらない声で第一声を放った。
「ううん、大丈夫。古葉ちゃんも遅れててまだ来てないし」
気付けば、ここに集まっている元クラスメイトはもちろんの事、店のスタッフまでもが美咲に視線を送っていた。
美咲はあの頃と変わらず美人だった。
街ですれ違ったら振り返って見てしまうような容姿をしていた。
けれど、美咲のキレイさにはどことなく冷たさが有った。
元々、表情を出すのが苦手らしい。
俺と美咲が初めて会ったのは、中学校に入った時。
クラスが一緒だった。
そのクラスに偶然、幼稚園が一緒だった真由子がいて、美咲を紹介してくれた。
美咲と真由子は小学校が一緒で仲良くなったらしい。
きっと真由子がいなければ、俺は美咲と話す事は無かったと思う。
その時から美咲は話しかけ辛い独特の雰囲気を持っていた。
真由子はそんな美咲に臆する事なく他の友人達と同じように接していて、いつしか俺にとっても美咲は大事な友人の一人になっていた。
そして俺達3人は見事に第一志望だった同じ高校に入学する事が出来た。
「久しぶり、隆太」
真由子が美咲を俺の向かえの席に引っ張ってきた。
「久しぶり、卒業式以来だね」
近くで見る美咲は、やっぱりキレイだった。
ここにいる女子組は皆、色鮮やかな服を身にまとって、気合十分で来ている感がアリアリと伝わってくるけれど、美咲だけは違った。
きっとこういう状況で、ただの真っ黒なワンピース1枚で、皆の視線を独り占め出来てしまうのは、俺の知っている限り、美咲一人しかいない。
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