ソレデモワタシハアナタヲアイス
真由子はうつむいていた。
「どうしたの?」
俺の質問に真由子が少し口を開きかけたのと同時に店内がにぎやかになった。
拍手と冷やかしの声の中心に今日の主役がビールジョッキを持って立っている。
「えー、今日は皆、有難う。4名程、裏切り者もいるようだが」
再び店内が笑い声で包まれた。
けれど、俺達のテーブルはすっかり取り残されていた。
乾杯のあいさつを軽く聞き流しながら、俺と美咲は真由子の様子をうかがった。
真由子はうつむいたまま顔を上げる気配がない。
「ところで俺はてっきり、わざとクラス会を今日にしたのかと思っていたんだが、どうもそうではなく偶然だったらしい」
主役のその言葉に急に真由子がピクリと反応した。
さっきと変わらない泣き出しそうな顔のまま心配そうに美咲を見る。
美咲もまた、心配そうに真由子を見返した。
「皆、今日が何の日か覚えているだろうか?」
ここにいる誰もが記憶を探る為に口を閉じた。
もちろん俺もその一人だった。
「美咲は今日も行ったんだな?」
突然、主役から話しを振られたせいか、他に理由があったのか、皆の視線の的にされた美咲は驚いた表情をした。
そして少し沈黙を置いてから観念したかのように小さく息をはいて質問に答えた。
「はい、先生」
無理矢理、口元を引き上げているように見えた。
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