ソレデモワタシハアナタヲアイス
美咲の事情
職場のビルからやっと開放されたのは、23時過ぎだった。
今日も天気は絶好調に雨。
梅雨入り宣言目前と思われる季節なのだから仕方のない事だった。
世の中の流行に乗ってレインブーツでも買ってやろうかと考えるこの頃。
確か、去年もそんな事を思っていた気がする。
仕事で疲れきった頭がいつも以上にボーっとしているのは週末だからだろうか。
―――ああ、もういいや!―――
自分を甘やかしてタクシーを拾う。
週末の23時台の電車は酔っ払いとアルコールの臭いで居心地が悪い。
今日はそれに輪をかけて、雨の匂いもするだろう。
そう考えると今から目まいがした。
―――たまには、ね―――
タクシーに乗りながら贅沢を正当化する為に自分に言い聞かせる。
けれど、今日のこの選択は正解だった。
数分後、ワイパーの動く回数が増した。
車内でかかっていたラジオが、かき消されそうになる。
私は騒音とも言える雨音に集中していた。
もうラジオなんて聞こえない。
今すぐタクシーから飛び降りてしまいたかった。
もちろん傘も持たずに。
とはいえ、そんな事はそう易々と出来る事じゃない。
分かっている。
小さなため息が無意識にもれた。
―――やめやめ―――
とりあえず、雨にちょっとやられた思考回路を封鎖してバッグから携帯を取り出した。
自ら頼んだわけでもなく与えられた携帯。
今まで一度も変えていないメールアドレスのおかげで、毎日とんでもない数のスパムメールが届く。
正直、メールを受信する度に逐一チェックをするつもりはサラサラない。
仕事の休憩時間と移動時間がそれに充てられていた。
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