ソレデモワタシハアナタヲアイス
「美咲…」
真由子に手伝われながら、ようやく外に出られる格好になった私を、お母さんが階段の下で待っていた。
「外は寒いから」
そう言いながら、自分のお気に入りのストールを、私の首にグルリと巻いた。
「美咲。しっかりしなさい」
私の肩を掴むお母さんの手が、やたらと力強く感じる。
私は、そう出来る自信もないくせに、無意識に頷いた。
「気を付けてね。マユちゃん、美咲の事、お願いね」
真由子は、私にピッタリとくっついたまま頷いた。
玄関を開けると、外はまるで台風のような雨と風だった。
―――そっか…雨雲は、空を隠すんだ…―――
見上げると、黒い雲に空が覆われていた。
いや、違う。
黒いのは、空の方だった。
夜の空は、雨雲を白く感じる程に黒かった。
「美咲、急いで」
立ち止まる私の腕を、真由子が引いた。
「兄貴、出して」
車のドアを閉めると同時に、隆太のお兄さんがアクセルを踏んだ。
私は、さっきお風呂で洗い流したばかりのソラの匂いを探した。
けれど、もう見付からなかった。
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