ソレデモワタシハアナタヲアイス
伝う雫
車内の沈黙が、雨音を一層、引き立たせていた。
ワイパーで掃いても掃いても、視界はすぐにぼやける。
俺は、後部座席を振り返って見た。
美咲は乗り込んだ時のままの姿勢で、窓の外をぼんやりと見つめている。
真由子は、そんな美咲から目を離さずに寄り添っていた。
「もう着くぞ」
兄貴の声に、俺は体勢を戻した。
雨粒でぼやけた窓に、病院の白い明かりが見える。
兄貴は少しでも雨に濡れないようにと、時間外入口の真ん前に車を停めてくれた。
「着いたよ」
シートベルトを外して振り返る俺の声に、美咲が体を強張らせた。
これから俺達は、自分の目で現実を見る事になる。
俺は、今更、美咲の意思も聞かずにここに連れて来た事が、正しかったのか分からなくなった。
けれど、もう引き返せない。
俺は、一足先に時間外入口から入って、警備員室の窓を叩いた。
< 277 / 435 >

この作品をシェア

pagetop