ソレデモワタシハアナタヲアイス
「ソラ…そこに居るの?」
移動中、一言も言葉を発しなかった美咲が口を開いた。
「…はい」
海人は、美咲を見る事なく返した。
「会える?」
美咲は、こんな時ですらキレイな顔をしていた。
「…はい」
海人の返事を聞いてから、美咲は静かにドアの前に立った。
けれど、ドアを開ける為に使うべき手は、ピクリとも動かなかった。
「海人、おじさんは?」
俺は、海人の肩を押して、また長イスに座らせた。
「…さっき…新幹線に乗ったって電話が…そのうち…着くと思います…」
海人は限界だった。
俺は、海人の隣に座って、肩をポンポンと叩いた。
「美咲、俺、海人の事見てるから先に中入って…」
「ううん」
ドアの前に立ち尽くした美咲は、首を横に振った。
「お父さんより先に、私が会うワケにはいかない」
美咲は、自分に言い聞かせるように言った。
この状況下で、美咲は自分の立場をわきまえようとしていた。
俺達は、美咲にならって、ドアを開けようとはしなかった。
ただ長イスに座って、自分達が空人に会うべき時が来るのを待った。
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