ソレデモワタシハアナタヲアイス
「海人…」
どのくらい時間が経ったのか、俺達はその声の主に注目した。
スーツ姿に髪を少し乱した空人のお父さんが、こっちに向かって走って来た。
「父さん…」
海人は緩い声を出して立ち上がった。
俺達も遅れながら立ち上がった。
けれど、こんな時にどんな態度を取って良いのか、正しい答えを選べる程、俺達は大人ではなかった。
「海人…空人は?」
おじさんは、呆然と立ち尽くす俺達を気にする事なく、駆け寄った勢いのまま、荷物を放り投げて海人を力いっぱい抱きしめた。
「…その中…母さんも居るから…」
気が緩んだ海人の目からは、とうとう涙が溢れ出た。
おじさんは、抱きしめた海人の背中をポンポンと叩いてから、深呼吸をして、1人、ドアの前に立った。
そして震える手でドアを開けた。
< 280 / 435 >

この作品をシェア

pagetop