ソレデモワタシハアナタヲアイス
「空人…」
大きくドアを開けて、おじさんはヨロヨロと部屋に入った。
「お父さん!空人が!」
中から聞こえて来たのは、悲鳴のような空人のお母さんの声だった。
「空人!」
おじさんは、何度も震える声で空人の名前を呼んだ。
その間には、おばさんのすすり泣く声がまざる。
俺は、状況的に耳を塞げない代わりに、目をきつく閉じた。
すぐそこに遺体となった空人が居る。
それはもう、事実でしかない。
俺は、親友を失った事を認めなければならなかった。
閉じた目が、ジワジワと熱を持ち始める。
俺がそっと目を開けようとした時、自分の前を何かが横切るのを感じた。
見るとさっきまで海人の向こう隣の位置に居た美咲が、俺を通り越してドアの前に移動していた。
病院のドアは、開けっ放しにされてもゆっくりと自動で閉まる作りになっている。
さっき空人のお父さんが開けたドアが閉まりきる間際に、美咲はその目で部屋の中を捉えた。
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