ソレデモワタシハアナタヲアイス
「空人、あんたにあげるわ。美咲ちゃんの髪切ったはさみよ」
短い髪になった美咲は、空人に目を向けた。
そして切ったばかりの自分の髪を柩の中にそっと置いた。
「ソラ…」
空人の白い顔を見つめた美咲は、傍に居る俺ですらやっと聞こえる声で呟いた。
「短いの似合う?」
切り揃えられていない髪に触れてから、美咲は空人の顔に自分の顔を近付けた。
悲しみの余り、とうとう遺体にキスでもするのかと一瞬ヒヤッとしたけれど、さすがにそんな事はしなかった。
美咲は、空人の耳元で何かを囁いて、体を起こした。
「ワガママを聞いていただいて、有難うございました」
美咲は、もう一度空人の家族に頭を下げて、柩から離れた。
一部始終を傍で見ていた俺と真由子も、美咲に続いた。
「美咲、大丈夫?」
真由子がソロソロと聞いた。
「うん」
美咲は、その後の葬儀を冷静な顔で過ごした。
普通ではありえない事をやってしまった美咲は、色んな人から色んな事を囁かれた。
それでも美咲は、きっと後悔なんてしていないんだと、俺は思った。
「真由子、隆太、有難う。一緒に居てくれて」
美咲は、久しぶりに得意の笑顔を見せた。
美咲が空人に何を言ったのかは、誰も知る事はなかった。
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