ソレデモワタシハアナタヲアイス
今日という日
「今日は、斉藤空人の命日だ」
先生の口から出た名前に、ここに居る全員が息を飲んだ。
そうだ。
空人が死んだ時も、こんな風に雨が降っていた。
思い返せば、こんなにも空人の事を覚えているのに、俺はいつしか親友の死んだ日を記憶から消していた。
「あれから毎年、命日にはお墓と空人の家に行っていたんだが、いつも美咲に先を越されてな。今日も負けたよ」
先生は苦笑した。
「先生、家にも行ってたんですか？」
美咲が驚いた表情を向けた。
「ああ、美咲が居る間にお線香あげて帰ってたんだ。一度もはち会わなかったな」
美咲以外の誰もが、先生の言ったこの言葉の意味が分からなかった。
けれど、誰一人として、その意味を聞く声を上げる事はなく、先生もそれ以上、美咲に話しを振らなかった。
「偶然とは言え、俺は今日、皆に会えて良かったと思ってる。余裕のあるヤツは、明日にでもお墓参りに行ってみてくれ」
ようやく乾杯の言葉を聞いた俺達は、グラスを合わせた。
< 290 / 435 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop