ソレデモワタシハアナタヲアイス
選ぶ道
「ごめん。もうモデルやらないから」
美術部員の顔が曇った。
「え?あ…そうですか…」
てっきりいつものように快諾してくれると思っていた美術部員は、美咲の冷めた目にそれ以上、食らい付けなかった。
「どうしたの?あんなに協力的だったのに」
戻って来た美咲に、隆太が笑顔で聞いた。
「もう飽きた」
背中を丸めて帰る美術部員に、美咲は何の未練もなさそうだった。
「美咲、今日も部活あるの?」
隆太に負けないように、私も笑顔を作る。
「今日は休む」
けれど、私達がどんなに笑って見せても、美咲が笑顔を返す事はなかった。
「何?用事?」
すかさず隆太が会話を続けた。
「うん。海人くんに呼ばれたからソラん家行って来る」
気を付けようと思っていても、空人の名前を聞くと頭が真っ白になって言葉に詰まってしまう。
その辺については、誰よりも美咲が冷静だったのかもしれない。
「ふぅーん、なんなんだろうね」
空人が死んで一週間、隆太は美咲のどんな言動にも対応出来るようになっていた。
「分かんない。とにかく家に来てって昨日電話来たから行ってみるよ」
美咲は、今日も表情を崩す事なく帰って行った。
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