ソレデモワタシハアナタヲアイス
「電話、仕事?大丈夫?」
さっきより心なしが歩調が速くなった美咲に、俺はペースを合わせた。
「うん。たいした事ないから平気」
美咲は、俺に振り向きもしないで、ズンズンと歩いた。
「もうすぐクリスマスかぁ…」
しばらくして街のクリスマスムードに気付いた美咲が、飾られたウィンドウに目を向けた。
「ねぇ、隆太、覚えてる?ソラん家でクリスマスやったの」
美咲が、なんの前触れもなく空人の名前を口にした。
「うん。覚えてるよ。最初は美咲ん家でやるつもりだったのに、空人のおばさんが大反対して当日になって空人ん家でやる事になったんだよね」
美咲から空人の名前が出る事は、再会してからの半年間では、そう珍しい事ではなかった。
けれど、俺にはどうも慣れない事だった。
空人の名前を聞くと、不覚にも一瞬、頭が真っ白になってしまう。
17歳で恋人の死という辛い思いをした美咲が、空人の事を口にする以上、俺は2人の共通の友人として普通に思い出話しをしようと、常に自分に言い聞かせていた。
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