ソレデモワタシハアナタヲアイス
「…美咲」
エントランスに置かれたソファーに、ずぶ濡れになっている美咲が、うつむいたまま座っていた。
「リュウ…」
俺の声に反応した美咲が、顔を上げて立ち上がった。
「どうしたの?カサは?」
駆け寄って見ると、美咲の横にはちゃんとカサがソファーにもたれていた。
―――さしてない?―――
けれど、この雨の中、カサはその役割をまっとう出来なかったらしい。
キレイに閉じられたカサからは、美咲程、雨を浴びた形跡がなかった。
「いつから居たの?連絡してくれれば良かったのに。とにかく部屋行こう。風邪ひくから」
明らかに様子のおかしい美咲を相手に、俺は平常心を保とうとした。
それに、何よりも今は、このずぶ濡れの美咲をどうにかしなくてはならない。
俺は、すっかり冷たくなっている美咲の腕を掴んだ。
すると、美咲はその冷たい腕を静かに俺の胴に回して、抱き付いて来た。
「帰って来なかったらどうしようかと思った…」
美咲の震える声と体に、俺はハッとなった。
付き合いだしてから、美咲が連絡なく突然家に来る事は時々あった。
最初は驚いたけれど、急に美咲が来る事に、特に問題のなかった俺は、あまり深く気にせずにいつも受け入れていた。
けれど、記憶をだどってみると、美咲が突然、家に来る日にはある共通点があった。
―――雨か…―――
今更、気付いた。
美咲は雨の日、いや雨の夜に連絡もなく突然家に来ていた。
「帰って来るでしょ?出張の時はちゃんと前もって言ってるじゃん。ほら、部屋行くよ」
俺は、震える美咲の肩をポンポンと叩いて部屋に向かった。
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