ソレデモワタシハアナタヲアイス
―――全然ダメじゃん―――
脱衣所を出た俺は、込み上げる悔しさの余り、その場に力なく座り込んだ。
美咲は、まだ空人を引きずっている。
もしかしたらトラウマなのかも知れないけれど、美咲の中の空人の存在は、俺が思っていた以上に大きかった。
土砂降りの中、持っているカサをさす事も忘れて、美咲がここまで来た様子を想像するだけで、あの頃からずっと美咲を救えていない自分に腹が立った。
クラス会の時に、もう走れないと言った美咲の言葉を聞いて、俺は美咲はもう空人の事は吹っ切れているものだと思っていた。
走る事は、きっと美咲にとっては空人の声があってこその事だ。
だから美咲は、走る事と一緒に存在していた空人を封印するように、走らなくなったのではないかと俺は解釈していた。
元々、高校でやる気のなかったバスケをやったのは、空人のせいだったし、空人が死んでから正式にまたやり始めたのは、きっと空人の代わりに自分が出来る事をやろうとした事だと思う。
それに再会した今もなんでもない会話に空人の名前を口にする美咲が、そんな俺の予想をより確実なものへと押し上げていた。
俺は、ドア越しに聞こえるシャワーの音を全身に浴びながら、窓を打ち付ける雨をただ黙って見つめた。
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