ソレデモワタシハアナタヲアイス
私は、一気に緊張がとれてやっとソファーに座った。
「ごめん、ごめん。仕事忙しくて」
真由子は変わらない。
そんなの分かっていたはずなのに、電話をかけるのにさっきまで緊張していた自分がなんだかおかしくなった。
「美咲、古葉ちゃん覚えてる?」
世間話しもそこそこに真由子が本題を切り出した。
「高校の時の担任の?」
私は記憶の中から真由子の言う「古葉ちゃん」を探し当てた。
「そうそう!」
懐かしい名前だった。
けれど、今さら何故に高校の担任が…
「何と古葉ちゃん、結婚するんだって!」
真由子の突然の告白に私は耳を疑った。
「え?えー!?マジで!?」
社会に出てから言葉使いには、毎日気をつけている。
けれど、真由子との会話では気が抜けて学生の頃のようなしゃべり方についつい戻ってしまう。
「あの、生徒よりも遅刻が多くて、国語科にも関わらず字が汚くて、スーツがくたびれてて、いつもどっかだらしなかった古葉先生が結婚!?」
相手は携帯の向こうだというのに私は身を乗り出してしまった。
「美咲、全部正解だけど相変わらずキッパリ言うね」
真由子が渇いた笑いを混ぜた。
気が抜けたついでに久しぶりにペラペラしゃべってしまった自分が、またおかしかった。
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