彼氏には夫になれない。
カーテン
遮光カーテンは私の味方だ。

「まだ寝てたの?」

身体の右半分に重みを感じて眉をしかめる。
眉間に出来た皺にやわらかな唇が触れた。

ウサギのお礼に合鍵を彼に渡したのだ。

「飲みに行ったの?」

「少しだけね」

目を開けると彼の顔とサイドテーブルに積まれた本と灰皿が見える。
時計はまだ9時半。
寝たのは7時過ぎだった。
彼は仕事はいいのだろうか。

陽当たりの良い部屋で昼過ぎまで寝るのは大変だ。
おまけに2日前からは彼とぴーちゃんが起こしてくれている。
二人ともまだ私の生活のリズムは把握していないようだ。
昨日は10時に起こされた。

「ぴーちゃんまた脱走してたよ」

彼はカーテンを開けながら報告する。
ぴーちゃんは脱走が上手で困っている。
飼い主よりも器用なようだ。
いつの間にかケージの外に出ている。

「捕まえてご飯あげたよ」

「ありがとう」

自分が買ってきたからか、ぴーちゃんの世話を進んでしている。
昨日は菜っぱとおやつを買ってきてくれた。

「コーヒー飲む?」

「うん」

キッチンでお湯を沸かしながら歯を磨く。
ぴーちゃんは菜っぱをもしゃもしゃしている。

「おはよ、また散歩したの?」

ぴーちゃんは食べている時は何をされても無視する。
わき腹をつついてみたけど、菜っぱに夢中だ。

洗面所で口を濯ぐと、丁度お湯が沸いた。
コーヒーはうんとアメリカンにした。
リビングにいい香りが広がる。

「コーヒー出来たよ」

寝室に向かって呼び掛ける。
なのに、返事がない。
寝てしまったのだろうか。

寝室を覗くと彼はベッドに腰掛けて窓の外を見ていた。
何を見ているのだろう。
表情はよくわからない。


見たことのない顔をしていた。

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