不器用なカノジョ。
ランニングをしながら俺は思い出していた。
ひろに今日の試合を見に来てほしい、そう頼んだときのことを。
今日の昼休み。
俺はメシを食べて図書室に行った。
「お、俊輔!」
図書室に入るとまずあの人に見つかった。
「どーもっす、センセ」
そう、キョンちゃんだ。
キョンちゃんはあの日以来、俺に『くん』をつけなくなった。
まあどうでもいいんだけどな。
「ひろ、話がある」
「…何よ?」
そして、キョンちゃんとひろはまた、一緒に昼飯を食べるようになった。
その経緯はよく知らないけど、どうやらひろが、一緒に食べよう、そう言ったみたいだ。
その言葉にとくに深い意味は込められてないらしい。
ひろがキョンちゃんをどう思っているのか、俺にはよく分からないけど。
でも、多分、キョンちゃんにそう言ったのは好きだから、そうじゃないと思う。
「あのさ、今日、部活…ある?」
「ないけど」
それがどうかした?と言いたげなひろの顔。
「じゃあ、授業終わってから30分後に野球部のグラウンドに来て」
「…なんで?」
「今日、紅白戦があるんだ。
ひろに見に来てほしい。
…絶対に、勝つから」
しばらく俺とひろはじっとお互いに視線を逸らさなかった。
それをキョンちゃんはおもしろそう、と言わんばかりの顔で見ていた。
「…分かった、行ってあげる。
その代わり、絶対、勝ちなさいよ」