不器用なカノジョ。
誰だ?
『完全アウェイの負け試合』
なんて言ったヤツは。
…あ、そうだ。
俺だ。
守備につきながらそんなことを考え、緩みそうな頬を引き締めた。
ただいま、8回表。
相手チームの攻撃。
点数は0-0
誰もこんな展開、予想していなかっただろう。
現に、あまり気合いの入っていなかった応援団、チア部、吹部は今や本気になって応援してくれている…俺たちを。
歓声も回を追うごとに大きくなっている。
ただ残念なことに俺たちは有利、というワケではまったくない。
むしろ、押され気味の試合展開。
7回までの間に俺たちが塁に出れたのはたったの1回。
健が体勢を崩しながらギリギリのライト前ヒット。
これ、1本だけ。
それに比べて2,3年チームは毎回毎回ヒットを打ってくる。
それをギリギリで抑える。
そんな状態でここまで乗り切った。
多分、この試合が始まって以来の快挙だろう。
ウワサでは1年が過去、散々コテンパンにさせられてきたらしい。
でも、このままじゃ終われない。
0-0でたとえ、終われたとしても。
それじゃあ意味がない。
だって、0-0って引き分けだろ。
勝利、ではない。
俺が…いや、俺たちが目指してるのは…
『勝利』
このたった二文字なんだから。