不器用なカノジョ。
キャッチャーマスクを被りながらそんなことを考えていると
『カキーン』
と、いう音が耳をついた。
しまったっ!
そう思ってボールを目で追う。
そして落下地点を見て思わずちぇっと舌打ちをした。
打たれた打球はキレイな弧を描き、レフトの頭を越えて後ろに転がって行く。
歓声が頭に響く。
あの打球を打った先輩は中々足が速い。
3塁打…最悪、ランニングホームラン。
8回表で1点。
この1点…デカイな。
そう思いながらピッチャーを見るとかなり息が上がっていて。
仕方ないよな。
先輩たちを7回まで無失点で抑えたんだ。
疲労も溜まったって仕方ない。
頭の中で独り言を呟きながらボールを目で追う。
今やっと、レフトがボールを捕った。
バッターは2塁を蹴ったところ。
レフトからショートにボールが送られる。
先輩は3塁に到達。
多分、余裕がある試合なら3塁でストップだ。
でも、先輩はホームに突っ込んでくる。
「ちぇっ」
と、また舌打ち。
相手も相当切羽詰まってんな。
ここで突っ込んでくるのか。
先輩が近づいてくるのを目の端で捉えながらショートからのボールに焦点を合わす。
間に合う。
そう、思った。
来い
…来い!
……来いっ!!
俺のグローブにボールが入るのと先輩がスライディングをしたのはほぼ、同時だった。
主審の判定を待つ。
「……セーフ!!!」
その声がグラウンドに響いたのと同時に捕球したはずのボールがベースの上を転がった…